
なぜ高圧噴射撹拌工法による地盤改良を建築基礎に適用できるのか ―セメント系地盤改良の歴史からエコタイト-Sのすごさを探る―
「地盤改良体を、建物の基礎として使う」
そう聞くと、少し不思議に感じる方もいるかもしれません。
「そもそも、そんな使い方ができるの?」と驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
地盤改良といえば、土を強くしたり、水を止めたり、掘削を安全に進めたりするための技術というイメージが強いかもしれません。
では、なぜそれが建築物を支える基礎として評価できるのでしょうか。
実はその答えは、セメント系地盤改良の歴史や、建築基準法における設計の考え方、そして品質をどのように評価するかという技術の積み重ねの中にあります。
本記事では、少し歴史をさかのぼりながら、高圧噴射撹拌工法による地盤改良体が建築基礎に適用できる理由を、エコタイト-S工法の特長とあわせてご紹介します。
この記事が、読んでくださる皆さんの理解を深める助けになれば嬉しいです。
それでは、はじめます。
この記事でわかること
セメント系地盤改良の歴史
機械撹拌工法と高圧噴射撹拌工法の違い
地盤改良が建築基礎に使われにくかった理由
建築基礎への適用を後押しした設計基準と品質評価の考え方
エコタイト-S工法が建築基礎に適用できる理由
目次[非表示]
1970年頃:セメント系地盤改良の誕生―機械撹拌工法と高圧噴射撹拌工法
地盤改良の歴史は、とても古いものです。
日本に話題を絞ってみても、古代の古墳や中世の城の石垣などで、現在でいう「地盤改良」に近い考え方で土を締め固めていたことが知られています。
そして近代以降、さまざまな改良原理による地盤改良工法が開発されてきました。
地盤改良については、別記事もあわせてご参照ください。
今回取り上げるセメント系地盤改良も、そのうちのひとつです。
セメント系地盤改良とは、文字どおり、セメント系固化材と現地、つまり原位置の土を混ぜ合わせる地盤改良工法です。
セメントを用いるため、他の地盤改良工法に比べて信頼性が高く、さまざまな用途に適用されています。
セメント系地盤改良は、大きく2種類に分けられます
セメント系地盤改良は、土と固化材をどのように混ぜ合わせるか、つまり撹拌混合方法によって、大きく2種類に分類できます。
一つ目が、回転する撹拌翼で土と固化材を混ぜる機械撹拌工法(図1)です。
料理で使うブレンダーをイメージすると、少しわかりやすいかもしれません。
撹拌翼が回転しながら、地盤の中で土と固化材を混ぜ合わせていく工法です。
©CDM研究会
図1 機械撹拌工法の施工機と撹拌翼:CDM工法の例
もうひとつが、高圧のジェット噴流で混ぜる高圧噴射撹拌工法(図2)です。
こちらは撹拌翼ではなく、細いロッドから噴射される固化材スラリー、つまり流体で地盤を切削しながら混ぜ合わせます。
高圧噴射撹拌工法は、大きな改良径を造成できる一方で、改良径のコントロールが難しいという特長があります。
また、機械撹拌工法と高圧噴射撹拌工法はいずれも比較的深い位置まで適用できるため、深層混合処理工法に分類されることもあります。

図2 高圧噴射撹拌工法の施工機と噴射状況:JETCRETEの例
この2種類の工法は、1960年代後半から1970年代初頭にかけて、それぞれ日本で開発された国産の技術です。
その背景には、高度成長期の日本において、大規模な軟弱地盤を効率的に改良できる技術が求められていたという時代のニーズがあったものと考えられます。
1970~1990年代:セメント系地盤改良の普及―社会資本整備への貢献
1970~1990年代にかけて、セメント系地盤改良は大きく普及していきました。
都市や工業エリアの再開発、鉄道・港湾・空港の整備など、大規模な地盤改良の現場で実績を積み重ね、日本の軟弱地盤を克服するためになくてはならない技術へと成長していきます。
ただし、ここでひとつ重要なポイントがあります。
当時の実績の多くは、社会資本整備に関わる土木工事でした。建築分野でセメント系地盤改良が使われることは、まだあまり多くありませんでした。
特に、建築物を支持する目的、つまり構造目的でセメント系地盤改良が行われることはめったにありませんでした。
なぜ建築物の支持目的では採用されにくかったのか
では、なぜ建築物の支持目的で地盤改良が採用されにくかったのでしょうか。
大きな理由のひとつとして、建築基準法における地盤改良の評価の仕方、つまり許容応力度の計算方法が決まっていなかったことが挙げられます。
杭や地盤には、法令で規定された許容応力度の計算方法があります。
設計者は、その計算方法に基づいて構造設計を行います。
一方で、地盤改良体は少し特殊な存在です。
構造物そのものでもなく、もともとの地盤そのものでもない。いわば、その中間のような存在です。
そのため、当時は法令上の設計基準が整っておらず、地盤改良体を構造設計に取り入れることには大きなハードルがあったと考えられます。
1995年~:セメント系地盤改良の転換―阪神・淡路大震災の経験と許容応力度の規定
この状況を大きく変えるきっかけのひとつとなったのが、1995年の阪神・淡路大震災です。
震災後の建物被害の調査では、地盤改良の有無によって被害に差があることが確認されました。
つまり、建築物に対する地盤改良の有効性が確認されたのです。
具体的には、内閣府の資料において、「地盤改良がなされていた地盤においては液状化が生じず、構造部の被害も軽微であった」1)と評価されています。
その後、1997年には、こうした調査結果などを踏まえ、産官学の専門家たちによって「建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針」が策定されました。この「改良指針」では、地盤改良の品質評価に統計的手法を取り入れるという画期的な考え方が示されました。
さらに2001年、建築基準法の50年振りの抜本的な改正のなかで、国交省告示第1113号により、ついに地盤改良体の許容応力度の計算方法が定められました。そして翌年の2002年には、告示第1113号を反映する形で「改良指針」も改訂され、建築物への地盤改良の円滑な適用が促されていきました。
「改良指針」における高圧噴射撹拌工法の取扱い―「改良指針」におけるばらつきの考え方
ここまで見ると、「地盤改良体の許容応力度の計算方法が定められたなら、高圧噴射撹拌工法もすぐに建築基礎へ使えるようになったのでは?」と思うかもしれません。
しかし、そう単純ではありませんでした。
1997年の初版にしても、2002年の改訂版にしても、「改良指針」でまとめられた設計・品質管理手法は、機械撹拌工法を中心としたものでした。
つまり、高圧噴射撹拌工法は考慮されていなかったのです。
なぜ高圧噴射撹拌工法は、当初「改良指針」で扱われなかったのでしょうか。
その理由を考えるために、少しだけ「改良指針」における品質評価の考え方を見ていきます。
地盤改良では、品質のばらつきを前提に考える
端的に言えば、「改良指針」は、「セメント系固化材を用いた地盤改良工法では、改良した部分に品質のばらつきが生じる」2)ことを前提としています。
土と固化材を混ぜ合わせる地盤改良では、どれだけ施工技術を工夫しても、原地盤そのもののばらつきを完全に避けることはできません。
そのため、「品質は必ずばらつくもの」と考えたうえで、そのばらつきを含めて評価する方法として、統計的手法を用いることが提案されています。
具体的には、品質のばらつき、不良率を考慮して設計基準強度を設定します(図3)。
簡単に言うと、ばらつきを考慮して、安全を確保する設計の考え方です。

図3「改良指針」における設計基準強度と現場平均強度の関係
※地盤改良体コアの圧縮強さのばらつきが正規分布するとき、
現場平均強度から標準偏差×(不良率から決まる定数)を減じたものを設計基準強度とする
ここで非常に重要なのは、「改良指針」がいう品質のばらつきとは、主に圧縮強度のばらつきを指しているという点です。
高圧噴射撹拌工法では「径」もばらつく
機械撹拌工法では、改良径は撹拌翼によって決まります。
そのため、基本的に改良径は一様に決まりやすい工法です(図4)。
一方、高圧噴射撹拌工法では、ジェット噴流によって地盤を切削します。
そのため、切削範囲が地盤条件に左右されやすいため、改良径が一様に決まらないという特徴があります(図5)。
つまり、高圧噴射撹拌工法では、強度だけでなく径もばらついてしまうのです。
©アスコラム協会 
図4 機械撹拌工法の改良体掘出し状況:アスコラム工法の例 図5 高圧噴射撹拌工法の改良体掘出し状況:JETCRETEの例
このような点から、高圧噴射撹拌工法の品質管理は、機械撹拌工法よりも難しいと考えられていました。
やや極端に言えば、高圧噴射撹拌工法の品質は機械撹拌工法よりも「劣る」と評価されたために、「改良指針」では言及されなかったものと考えられます。
2015年~:高圧噴射撹拌工法の品質の証明―エコタイト-S工法の開発と高圧噴射撹拌工法の「改良指針」への掲載
このような状況のなか、当社は高圧噴射撹拌工法を建築物に適用するため、その高品質化に取り組み続けてきました。
その取り組みは、言い換えると、高圧噴射撹拌工法の品質のばらつきを、機械撹拌工法並みに抑えられることを証明するという挑戦でした。
当社では、ツールスの改良や、実証実験、実現場でのデータ収集・分析を繰り返してきました。
その結果、2015年に「改良指針」に則り、許容応力度計算に適用できる高圧噴射撹拌工法を開発することができました。
当社では、この工法をエコタイト-S工法と名付けました。
そして、強度の変動係数35%を採用して設計できることについて、建築技術性能証明(GBRC 性能証明 第14-30号)を取得しています(図6、7)。

図6 エコタイト-S工法の建築技術性能証明評価概要報告書

図7 エコタイト-S工法の一軸圧縮強さのヒストグラム(砂質土)の例3)
エコタイト-S工法の詳細や適用範囲については、こちらもご参照ください。
2018年、「改良指針」に高圧噴射撹拌工法が掲載
さらに、こうした当社のエコタイト-S工法の開発もあってか、2018年に再改訂された「改良指針」において、「その他の地盤改良工法」という扱いではありますが、高圧噴射撹拌工法が掲載されることになりました。
以降、今日にいたるまで、エコタイト-S工法は建築基礎としての施工実績を積み重ねてきています。
特に、超小型施工機を用いることで、建物内部などの狭隘な空間で地盤改良ができることは大きな特長です(図8)。
たとえば、再開発・建替え工事では、解体中のビルの内部から、建て替え前よりも高支持力の直接基礎を築造するケースがあります。
また、既存建物の耐震補強では、建物内部から地盤改良を行うケースもあります。
このように、エコタイト-S工法は、難しい条件での地盤改良においても採用いただいています。
これらの実績や適用例も含め、少しでもエコタイト-S工法にご興味を持っていただけたなら、ぜひ一度当社までご相談ください。
図8 エコタイト-Sの屋内施工例
まとめ
今回は、セメント系地盤改良の歴史をたどりながら、なぜ高圧噴射撹拌工法による地盤改良を建築基礎に適用できるのかを見てきました。
ポイントを整理すると、次のようになります。
- セメント系地盤改良は、1970年頃に日本で開発され、土木分野を中心に普及してきた
- 建築分野では、当初、地盤改良体を構造設計に取り入れるための基準が整っていなかった
- 阪神・淡路大震災後、地盤改良の有効性が確認され、設計・品質管理の考え方が整備されていった
- 「改良指針」では、品質のばらつきを統計的に評価する考え方が取り入れられた
- 高圧噴射撹拌工法は、強度だけでなく改良径にもばらつきが生じやすいため、機械撹拌工法よりも品質管理が難しいと考えられていた
- 当社は、品質のばらつきを抑えるための開発と検証を重ね、エコタイト-S工法として建築技術性能証明を取得した
- 現在では、エコタイト-S工法は建築基礎としての施工実績を積み重ねている
高圧噴射撹拌工法を建築基礎へ適用するためには、単に「施工できる」だけではなく、設計基準や品質評価の考え方に基づいて、信頼性を示すことが重要です。
エコタイト-S工法は、そうした課題に向き合いながら開発された、建築基礎に適用できる高圧噴射撹拌工法です。
地盤改良や建築基礎への適用についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
- 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」1999年、1-01.被害発生【01】地震動と地質・地盤02-04
- (一財)日本建築センター・(一財)ベターリビング『2018年版 建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針』2018年、p.290
- (一財)日本建築総合試験所『建築技術性能証明評価概要報告書 エコタイト-S工法―高圧噴射攪拌工法―(改定1)』2022年、技-39

