地盤凍結工法その1
軟弱な地盤に構造物を建設するために、様々な地盤改良工法があります。地盤改良工法は、東日本大震災後に液状化現象が大きく取り上げられたこともあり、近年では地震と関連付けられることも多いようですが、別の目的として、地中に構造物を造る建設工事において、補助的に用いられることもあります。地下鉄や高速道路の地中トンネルや、駅ビル・ショッピングセンターの地下フロアを建設する際には、広い範囲を掘削しなければなりません。掘削工事には、地上から掘り下げていく開削工法と、シールドトンネルに代表されるような、地上への影響が限定的となる非開削工法がありますが、どちらとも、掘削中に地下水が噴出したり、土砂が崩壊したりする危険が伴います。そこで、本体工事の前に地盤を固めておき、工事を安全確実に行えるようにすることが、地盤改良の大きな目的の一つです。一般の人々が構造物を安心して利用できるようになるための最初のステップ、すなわち「工事のための工事」であり、液状化対策や耐震補強のように、半永久的に効果が必要とされる地盤改良とは区別して考えられています。
前置きが長くなりましたが、「地盤凍結工法」は地盤改良工法に分類されるものの一つです。セメントのような固まる材料を使用する工法が広く用いられていますが、「地盤凍結工法」は、地下水を含む土を凍らせることにより地盤を固めます。凍結した土は、水を通さず、コンクリートと同じくらいの強度があるので、地下水の噴出や土砂の崩壊のリスクを少なくすることができます。他の工法と比較しても、止水性、強度ともに非常に高く、信頼性の高い工法です。工事完了後は、凍結した土を融解させますので、基本的には地中に何も残すことなく、元通りにすることができることから、環境にやさしい工法とも言われています。ただし、一般的にコストは割高となるので、地中の深い場所での工事など、難しい工事に適用されることが多い工法です。
地盤を凍結する方法ですが、凍結管と呼ばれるパイプを埋設し、ブライン(不凍液)を凍結管に循環する方式が一般的です。ブラインの温度は通常-30℃程度で、食品冷凍倉庫で使用されるような大きさの冷凍機を使用して循環するブラインを冷却します。凍土は凍結管の周りに年輪状に成長し、やがて隣接する凍結管の周りの凍土と結合して、壁のような平板状の塊となります。工事の規模により異なりますが、10~20日で必要な凍土が出来上がり、数カ月で掘削を含む建設工事を完了させて(この期間中、冷凍機は運転し続けて凍土を維持します。)、その後、今度は温かいブラインを循環して凍土を融解します。比較的小規模な工事では、ブラインの代わりに液体窒素を使用するケースもあります。また、地球温暖化緩和に向けた冷凍機の省エネ化や、施工の合理化も進められています。
最近では、福島第一原子力発電所の凍土遮水壁に適用されたことや、2020年の東京オリンピックに向けたインフラ整備事業においても適用が検討されていることから、今「地盤凍結工法」が注目されています。今回は工法の全般的なご紹介となりましたが、皆様にご興味をお持ちいただけるように、今後数回にわたって、最近の動向や周辺の技術も交えて「地盤凍結工法」をご紹介します。